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映画監督の”飲み助筆頭”は誰???

            撮影所時代 (その14)

撮影所というところは一風変わった人間が生息する場所のようだ。私の知る限り何と云ってもその筆頭は浦山桐郎氏だ。異端児であり、天才でもあった。

彼は浦さん、浦公で通っていたが、助監督としても最優秀の折り紙を師匠の今村昌平氏からつけられていた。今村さんがチーフ助監督の時はセカンドで川島雄三監督につき、今村さんが監督に昇進してからは今村組のチーフとして活躍した。

「にあんちゃん」の撮影時のエピソードにこんなのがある。九州ロケのとき、湾を見下ろす大俯瞰のショットを撮るときのこと、画面に砂利運搬船が写りこみ、どうしてもどこうとしない。さすがの今村さんも困り果てた。カメラの姫田さんも「浦公、何とかしてこい」と喚く。製作部サイドが何度も交渉に行ったが、一向に動いてくれないのだ。

浦さんが掛け合いにはしった。待つこと30分、なんと砂利船が動き出したではないか。姫田さんはチャンス到来とばかりに撮影を完了させた。浦さんがどんな奥の手を使ったのか誰にももらさなかったが、この一事で助監督としての評価は最高にあがったという。

浦さんが日活に入ったのは偶然からである。助監督試験で合格したのは松竹だった。次点で落ちたのがなんと、山田洋次氏だったそうだ。それが運命のいたずらで、身体検査で肺に影があるという理由で浦さんは松竹を落とされ、代わりに山田洋次氏が合格した。後に大ヒットシリーズ「寅さん」を撮った山田洋次監督である。浦さんは製作再開したばかりの日活に入社した。

浦さんは普段傍で見る限りまともな助監督だった。ところが酒が入ると人間が変わった。猫が変じて虎になるどころか、まともではなくなるのだ。小男の部類に属する浦さんだが、見境なく相手に突っかかっていく。とことん絡みぬく、そして喧嘩になる。やくざと殴り合いボコボコにされることも度々だったらしい。撮影所の人間は大抵浦さんと飲むのは遠慮したそうだ。

Photo そしていまひとつユニークな奇行がある。別名「泣きの浦」とも呼ばれていた。イマヘイさんと飲みにいき、酒が入る。頃合いを見てイマヘイさんが「ウラ公、泣いてみろ」という。すると即座にウラさんは泣き出す。それもヨヨと泣き咽ぶのだ。本当に涙を流して男泣きするのである。そしてイマヘイさんが「やめろ」と言うやケロッと泣き止むのだから大概の人は驚く。

世に奇行の持ち主は多いと言えど、こんな芸当が出来たのは浦さんだけだろう。酒が入ると泣き出す人は多いらしいが、泣き節をどのようにでもコントロールできたのは浦さん位だろう。ともかく浦さんは何から何までケタ外れの人だったようだ。

浦山さんや今村さんを見ていると監督業はとても気楽な稼業とは思えない。というよりも現場監督に近いと思う。現場で怒鳴りまくり、役者に演技をつけ、予定をこなさないといけない。重労働にどうしてもなってしまう。体力勝負にならざるを得ない。だから酒を飲まずにはいられないのだろう。    Photo_2

助監督時代の浦さんは、よく製作部長の隣に座り込んでいた。最初は今村組の撮影中なのにチーフがよくまぁ油を売ってると私は思ったものだが、実はフィルムをもっとよこせと言う交渉だった。それも要求貫徹まで座り込むのである。

製作部長も相当音を上げていたようだ。机の隣のソファに坐られたままでは仕事にならず、席を外して時間を置いて戻ってみても、浦さんは坐ったままだ。一度浦さんが怪談のお岩のような顔で坐っているのをみたことがある。前夜の絡み酒の名残だったが、コレは相当に不気味だった。その蛇のような目で見られると部長もぞっとしたと思う。

製作部に浦さんが坐っているとフィルムが足らないんだなと、皆が思うようになった。だがコレは実は浦さんの発想ではない。師匠の今村さんの編み出した作戦なのだ。今村さんが川島組のチーフのときから始まったそうだ。でっぷり太ったイマヘイさんならさぞ押しが強かっただろうと思うが、やせで小男の浦さんはその蛇のような目で部長と勝負したようだ。

もうすぐ盆がくる、お二人とも今は天国の住人だが、さぞかし賑やかに芸術論争をしていることだろうと思う。

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